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仙台高等裁判所 昭和48年(く)3号 決定

被告人 高橋勇一

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する仙台地方裁判所古川支部昭和四七年(わ)第七六号暴行等被告事件において、同裁判所が昭和四八年一月一八日なした被告人申立にかかる勾留場所変更請求を却下する旨の決定に対し、弁護人西沢八郎より抗告の申立がなされたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、被告人は古川拘置支所に勾留され、仙台地方裁判所古川支部において審理を受けていたところ、昭和四七年一〇月一二日同支所から、宮城刑務所に移監された。しかし、被告事件はいまだ証拠調の段階にあり、右支部の所在地から遠隔の地に拘束されることになつた結果、記録の閲覧や弁護人との打合せが困難となり、被告人の防禦権が充分行使できなくなつたのみならず、適正迅速な裁判も受けられなくなつた。そこで被告人は同年一二月五日付書面をもつて、右の理由により同支部の最寄りの警察署に移監するよう申立たが、同裁判所はこれを却下した。しかし右申立は正当でこれを却下した原決定は違法であるから、その取消を求める、というにある。

よつて判断するに、記録によると、被告人は昭和四七年八月七日暴行、銃砲刀剣類所持等取締法違反の被疑事実で古川拘置支所に勾留され、同月九日同事実につき公訴が提起されて同支所に勾留のまま訴訟が進行していたところ、同年一〇月一二日被告人が同支所から宮城刑務所に移監されたこと、そのため被告人において同年一二月五日前記のとおり勾留場所を変更するよう申立たが、昭和四八年一月一八日同裁判所は、被告人の移監は検察官の権限において行い、裁判長はこれに対し同意、不同意という形式で受動的に規制できるのにとどまるのであつて、被告人は裁判所に対し勾留場所変更の請求をなし得ないし、裁判所もまた勾留場所を変更する権限がなく、なお、かりに裁判所が職権で検察官に対し移監を命じ得るとしても、被告人は本来の拘置監たる宮城刑務所に勾留されておるのであつて最寄りとはいえ代用監獄である警察署に移監しなければ被告人の防禦に支障があるとは認められない、として右申立を却下したことが認められる。ところで、被告人の移監に対する裁判長の同意は勾留に関する裁判に当り、被告人においてこれに対し抗告を申立てることができるが、本件は移監同意の適否を争うものでなく、新らたに勾留場所の変更を求めるものであるところ、裁判所において被告人の防禦権の行使を考慮し職権により勾留場所を変更する旨の決定はできるとしても、被告人としては当初の勾留の裁判あるいは移監同意の裁判に対し、その勾留場所の適否を争うことにより、その防禦権の行使に支障のないようその是正を求める手続は充分保障されているのであるから、勾留場所の是正を求めるには当然右の手続によるべきであつて、その手続をとることなく、これと別個に勾留場所の変更を申立てることは、裁判所の職権発動をうながすための事実上の要望と解し得られることは別とし、かかる申立権を認めた規定の全くない現行法においては許されないものと解するを相当とする。

されば右申立を却下した原決定は適法で、本件抗告は理由がないから、刑事訴訟法四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

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